この疾患の方は、当クリニックにも多く来院されます。
お腹が痛くなったり、便秘や下痢を繰り返す病気です。
<頻度>
日本を含む先進国に多く、成人の10%が罹患している病気です。
子供でも多く、小学生1.5%ですが、徐々に増加し、高校生になる頃には9.2%と非常によく見られます。全体では女性にやや多いです。
<なりやすい人>
若い人、女性、・家族にIBSの方がいる、不安神経症、うつ病のご病気がある方
<症状>
・下痢や便秘を繰り返す(あるいは、どちらか一方だけ)。
・お腹にガスがたまって張って苦しい。
・お腹が痛い。
<原因>
①ストレス
直接的な原因は、未だに解明されていませんが、ストレスと関係があります。ストレスを感じると脳の下垂体という部位からホルモンが分泌され、消化管運動・内臓知覚過敏に影響を与えます。
②食事との関連
食事に関連して、症状がでることがあります。これをfood-related gastrointestinal(GI) symptomsといいます。日本語にすると食事関連胃腸症状と言います。食事関連胃腸症状の原因となるものとしては、脂肪分の多いお食事・コーヒー(カフェイン類)・アルコール・香辛料などです。
<治療>
IBSは、日常の生活に支障が出るだけではなく、認知症のリスク・自殺率の増加や生命予後にも影響がでる病気と言われています。
ただし、適切な治療を行えば改善に向かい、ある程度自分でコントロールできるようになります。
1)食事療法
食事は規則正しくとることで、排便のリズムも整ってきます。
早食い、まとめ食いは避け、腹8分目が胃腸に負担をかけず、適量だといわれています。
また食物繊維はぜひ摂ってください。
以下のものは、IBSと明確に関連しており避けた方が良いです。
・脂肪分の多い食事
・カフェイン
・香辛料(とうがらしなど)
・乳製品
・アルコール
・炭酸飲料
<低FODMAP食>
最近、IBSに効果的と言われています。
小腸内で分解・吸収されにくい短鎖炭水化物であるFODMAP(フォドマップ)を多く含む食品をなるべく避けることでIBS症状を軽減させる食事療法です。
FODMAPとは、Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides and Polyolsの頭文字をとったもので、「発酵しやすい糖類(オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール類)」
のことです。
FODMAPを多く含む代表的な食品としては、パン(小麦・ライ麦など)、ラーメン(小麦)、とうもろこし、タマネギ、にんにく、にら、ごぼう、りんご、すいか、もも、牛乳、ヨーグルトなどで、これらは高FODMAP食と言われています。
2)運動療法
適度な運動をして規則正しい食事、十分な睡眠時間といったライフスタイルはIBS症状を改善すると言われています。水泳・ウォーキング・ヨガなどの有酸素運動は、身体機能を維持し自律神経を整えメンタルにも良い影響を与えます。
3)薬物療法
下痢・便秘・腹痛などの症状を考慮して消化管に効くお薬を選択して患者さんに処方をします。
①高分子重合体
高分子重合体であるポリカルボフィルカルシウム(コロネル®、ポリフル®)はメジャーなお薬です。ポリカルボフィルカルシウムは、高吸水性ポリマーと言って水分を大量に吸い取る物質でできています。腸管で水分が多い下痢状の便であれば、吸水作用によりポリカルボフィルは膨張・ゲル化して便と一緒に排泄され、下痢を改善します。
一方、腸管内で膨張・ゲル化したポリカルボフィルは水分を保っているため排便自体が柔らかいものとなるため通常よりも腸管における便の通過速度は速くなり便秘にも効果的です。
②消化管運動機能調整薬
腸管の運動を調整することでIBS症状を改善します。
③プロバイオティクス(Probiotics)
「腸内細菌のバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」、のことです。
ミヤBM®(酪酸菌)、ビオフェルミン®、ラックビー®(ビフィズス菌)などがあります。
④セロトニン拮抗薬(5-HT3拮抗薬)
下痢型のIBSには、イリボー® (ラモセトロン)が効果的です。
⑤下痢止め
ロペラミド塩酸塩(ロペミン®)、タンニン酸アルブミン(タンナルビン®) などは下痢型IBSに効果があります。
ロペラミドは、過度の使用により腹部膨満や腸閉塞の報告があり注意が必要です。
⑥漢方薬
下痢型のIBS患者の方には、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が有効と言われています。
便秘型のIBSには、大建中湯(だいけんちゅうとう)の効果が示唆されています。
*漢方薬は効果に個人差があります。